ミイラ取りについていくつか

ミイラ取りにも救いはある。

それは最悪でもミイラになるだけであり、ミイラから何かを取られることはないということだ。考えてみるといい。あなたはピラミッドに盗掘に入る。ミイラを見つける。それを持って帰る。怪しげな商人に売る。口だけはアッラーを信じているニファークどもかもしれない。金だけはたっぷりある西洋人かもしれない。猿の様に毛深いアジア人かもしれない。それはどうでもいい。あなたは相応の代金をもらう。家に帰ろうとする。帰り道で果物でも買うかもしれない。そして気がつく。あなたはミイラに何かを奪われた。あなたは立ち止まる。ほこりっぽい風があなたの汗を乾かす。ミイラは確実にあなたから奪っていった。しかしあなたはそれが何だったのか分からない。あなたは家に帰るしかない。あなたはこれからも同じような人生を続けるしかない。そしてときおり、あの売り払ったミイラがあなたからまた奪っていったことに気がつく。戒律を破って少しだけ酒を飲んでいるときに。アザーンの音を聞いて瞑想にふけっているときに。あなたは、着実に、次々に、徹底的に奪われていく。ミイラの事でさえ忘れてしまう。ものを奪われた感覚だけが残る。そしてあなたは単に年老いていく。これが最悪のケースだ。ミイラになる方がずっとましだろ。