全ての山口県民はおれに感謝するべき ついでに日本国民も

特殊なことが起こった。おれの自己顕示欲のために書いておく。もちろん嘘だ。特殊なことなど起きていない。セックスもアルコールもニコチンもドラッグもない。月に何回かマスをかいて過ごしている。勃起には困難を感じないが、自慰の後の悪夢はどんどんひどくなっている。これ以上私に何を求めるつもりだ?
1番面白みのあるところからいこう。去年、衛星が山口県に落ちるところだった。
もちろん、山口県が消失したというニュースは来ていないはずだ。そもそも山口県の存在が疑わしいという議論もあろうが、要するに衛星は安定軌道に戻ったということだ。長門市も油谷湾も平穏だ。よかっただろ。君が高齢者を憎んでいる右翼で、高齢化率が43パーセントを超えた長門市を消さねば皇国が危ういと思っているのでなければ。
これでこの話はぜんぶだ。後は特別なことのない話だ。

2020/07/27

落ちかけたのは、1994年に打ち上げられた『みょうじょう』という衛星だ。JAXAのページもある。見に行くといい。役目を終え、ひたすら周回するはずの衛星のはずだった。それがなぜかすこしずれた軌道を取り始めた。
そういう話を、隣の棟にある宇宙研の特任助教(遠藤)が言ってきた。私より二歳上。博士の時に同じ『暗号数理4』を取っていたという仲だ。Twitterが本当にひどい。ミソジニストのカスだ。君の隣にもいるだろ。
私たちは食堂にいる。2020年7月27日のことだ。まずいカツカレーを食べている。すでに千葉県のキャンパスは『日常』に戻りつつあった。隣のテーブルでは、留学生たちが学費の相談をしていた。テレビでは感染拡大に歯止めがかかったと言っている。
ケスラーシンドロームに引っかけたら何か一口話になると特任助教が言った。宇宙ゴミが落ちてくるのは喫緊の課題です。科研費のネタになるかも。優秀な人間に特有の半笑いで遠藤が「山口からしてみれば、『何もしないなら帰れ』って話だけど」と言った。ミソジニスト・ジョークらしかった。
しかし、『みょうじょう』が落ちることは私には問題にならない気がした。『こうのとり』も『はやぶさ』も無害な程度にまで分解されながら落ちていった。ポイント・ネモに落ちないことは残念だが、それは宇宙屋の美的観点から見た話だ。パン屋がパンに求めるようなことを、我々はパンに求めない。
遠藤の話の要約:衛星は山口県の長門あたりに落ちると目されている。ここには首相(当時)の地縁があって、どうしても被害は出せない。
Cont.:従って、JAXAの技術者が総出でこの問題の解決に当たることになった。そして解決された。遠地点でダミーのエンジンを爆発ボルトにより切り離すことで――運動量保存則から――軌道の修正ができた。2.4トンの鉄塊が秒速0.5キロから秒速41キロまで加速しながら地球にアプローチしてきて、また遠ざかっていく。
Cont.:しかし、これは宇宙工学的な観点の解決だ。政治家は落ちてこないことの証明を要求する。もちろん、それは証明できる。シミュレーションを見せる。でも納得しない。これは理論の問題でも、厳正な手続きの問題でも無く、 雰囲気 ( アトモスフィア ) の問題だと思われる。
僕は言った。 大気 ( アトモスフィア ) は関係ないでしょ、宇宙の話なんだから。
ジョークの分からないミソジニストの話:つまり、『みょうじょう』が地球に落下すると推定された時刻に、『みょうじょう』の責任者が実際に山口県の川尻岬に行き、そこで何事も起こらないことを証明することでしか、この問題は解決しない。政治的にはそう決議された。単に傾向として。口頭でも文書でもなく。
Cont.:しかし、当時の責任者は墓にいる。正確に言えば、死んで墓にいる。さらに、山口県という実在も定かではない所に行けるほど暇な職員はJAXAにいない。そもそも、実際には起こらない物事を、実際に起こらなかったと確認するのは、業務ではない。従って、この任務――2020年8月20日に山口県に存在する――をこなせる人間は存在しない。
それでどうするのか、と私が訊くと、彼は「所長の11歳の娘が犠牲になるんですよ」と言ってヒヒヒヒと笑った。アニメ見てそうだった。あとTwitterで女を叩いてそう。家に進化心理学の本とかありそう。
そして、その娘の付き添いを遠藤は僕に押しつけた。遠藤は女が嫌いだからだ。こうして8月20日に山口県に存在することが僕に義務づけられた。ここでタイトルコールを出してくれ。

ひとなつの思い出

よかろう。
僕は帰って岸谷燈の出ているエロ動画を見た。その後、お気に入りのポルノでオナニーをした。たくさんでた。そのあと、極めてシンプルな悪夢がやってきた。赤黒い女性器がでかでかと描かれたトラックが目の前を通り過ぎるだけの悪夢だ:

人 恋 の 色 褐

ナ イ ャ ジ ァ ヴ


2020/07/28

遠藤から切符のメールが送られてきた。市役所の職員のメルアドも教えられた。8月19日に成田を出て、21日に帰る予定になった。スターフライヤーのチケットだった。市役所職員からは運賃精算の細かい指定が来た。切符は全て取っておけとのことだった。バカか? カス。アホ。クソ公務員が代。僕はすでに自腹を切ろうと思っていた。単に憎いからだった。

2020/08/19

東京駅で高速バスを待っていた。緑の桜の前で女達が自撮りをしていた。スマートフォンの持ち方に凝っていた。そうすることでしか奴らは自分を表現できない。これを見たら遠藤はきっと喜んだだろう。メールが来た。From:kiyokawa_reina_thx@gmail.com。僕が小学生のときに持っていたアドレスは ai_am_devil_0221@ezweb.ne.jpだった。件名:「よろしくお願いします」。小学生にしては理性的な本文だった。このガキは所長の娘でも、広報部長の娘でもなく、環境技術評価ユニット職員の娘だった。
出発10分前ちょうど、娘(キヨカワ・レイナ)がやってきた。僕は身分を名乗った。学生証も見せた。娘はなれなれしく挨拶をした。「楽しみです」とまでほざいた。彼女は社会化が早すぎた犬を思い起こさせた。彼女は11歳にしては大人と話しすぎていたし、人付きあいを教えられすぎていたし、愛想もよすぎた。こういう子供は幸せにはなれない。
ついでに言えば、この娘はブスだった。ブスリン(ブスからしかとれない有機化合物)がどっさりとれそうなブスだった。人である前にブスだった。系統樹を書いたら、古細菌が分岐した後で、他の全ての生物を置き去りにして分岐したようなブスだった(ブートストラップ値は図1に記載)。宇宙の晴れ上がりにはすでにブスだっただろうし、ビッグ・クランチまでブスだろう。
還元主義 ( リダクショニスト ) 的な、顔のパーツ一つ一つがブスというタイプのブスではなかった。 全体主義 ( ホーリスト ) 的な、パーツを集めた結果としてブスが創発しているわけでもなかった。最初からキヨカワの顔はブスベースで構築されていた。おそらく、原腸貫入あたりからブスありきの胚発生が行われたのだと思った。主題としてのブスがそこにはあった。日常的な用法で言えばお父さん似だった。
飛行機で山口まで行った。空港の近くのニッポンレンタカーでデミオを借りた。コンビニで飲み物を買う。キヨカワは「どれがいいですか?」と自分の飲み物で迷っていた。死ぬまで迷ってろ。ファンタを買った。
長門市までは長いドライブになった。遠くに一両だけの電車が走っていくのが見えた。娘は「オレンジジュースとグレープフルーツジュース、どっちが好きですか?」と単に時間を潰すために聞いてきた。僕はグレープフルーツだと言ってから、柑橘類の進化に関して小さなレクチャーを行った。この論文の解説だ。娘の反応を列挙しておく。
  • さすがです
  • 知りませんでした
  • すごいですね
  • 先生になれるんじゃないですか
  • それって結局何の意味があるんですか
殺すぞクソブス。
僕は黙った。キヨカワはKindleを取り出した。英語の例文集をやっていると言った。一つ読んでもらった。
ウィスキーのボトルを2本も開けて運転するのは危険だ。
小学生がやるには難しすぎると思えた。
長門市についた。チェーンのうどんを食べてからホテルに行った。JAXAの名前で予約がしてあった。我々は別々の部屋に入った。
私はパソコンを開いた。一時間ほど仕事をした。生物学者が読み取ったDNA配列を、綺麗なグラフにしてSlackに投げておいた。再現性のある研究――属人的でない仕事――誰でもできること。私は自分自身に考えることをやめさせた。
さて、諸君。やや唐突ではあるが、武器の用意をしたまえ。
私はマスターベーションをして寝た。写真化されたポルノは古来より持ち運ばれていたが、磁気ディスクと半導体メモリはその量を莫大なものにした。そして、物理学者が言うように、量の爆発は質の変革をもたらす
要するに、僕はスマホにあるお気に入りのポルノでシコった。すごい体験がよかった。たくさんでた。君たちが興味を持つかもしれないからはっきりさせておく。僕はあべみかこでも跡美しゅりでも抜いていない。では、僕は何でやっていたのか? ご両親と考えてみてくれ。
端的に言えば、僕は少女の脚で性欲を解消した。要するにロリコンのクズだ。さあ持ってきた武器を見せてくれ。ああ結構。いいのがそろってるじゃないか。
とにかく、私は素人の少女の脚でしかオナニーをしないようにしていた。それも、推定されるHA比(:=ふくらはぎの周長/足首の周長)が1に近い脚でしか抜かないようにしていた。 ぶよぶよとしたふくらはぎのない脚、細い脚、妖精の脚、すらっとした脚、無辜の脚――肝要なのはそこで、年齢ではなかった。子供達の成長には分散がある。その前提に立てば、9歳や15歳と言った基準でポルノを選定するのは、あまりにも教条主義的だった。
もちろん、私は細い脚でしか性的欲求が解消できないわけではない。ダイレクトな女性器でも十分に勃起できる。ではなぜ、僕のスマートフォンには会田誠なまでに少女の脚の画像が詰まっているのか? 怪しいサイトで購入したものが? ほぼ違法なものが? 僕の精液をたっぷり吸い込んで?
1. そっちのほうが君たちは不愉快に思うだろう?
以上だ。
僕はたくさんだす前に、キヨカワもなかなかいい脚をしていることに気がついた。しかもキヨカワはロリだった。これは正直言って僥倖と言わざるを得ない。そしてまた悪夢がやってきた。今度の悪夢は劇場版だった:

あの女性器が

今度は山口県で大暴れ!?

子供も

親1も

親2も

1800円を感動に変えよう

月曜日は感動が安く

auスマートパス会員なら感動がより安く

今年の夏は映画館でワギ泣き

劇場版 ワギナ

女は感動がもっと安い


2020/08/20

キヨカワとホテルで朝食を取った。オムレツもハムもパンもベーコンも、全てがペラペラだった。ヤバいレンダリングエンジンで描画されているみたいだった。キヨカワは相変わらず愛想よくニコニコ笑っていた。チェックアウトは11時だから遅れないように、と私は言った。勉強してます、とキヨカワは言った。遅れないように、と僕は繰り返した。
我々はレンタカーに乗った。青海島に山口県の名士たちが集まっているはずだった。ラジオはスノウ・パトロールを流している。あんまり聞かない音楽ですね、とキヨカワは言った。でもおしゃれです、なんて名前なんですか?
私はポプラの駐車場に車を止めた。サイドブレーキを引いた。そして、スノウ・パトロールについて一通り解説した。(キヨカワが知っているとは思えなかったが)コールド・プレイのライバルになれるくらいのバンドだったことを教えた。オエイシスとブラーみたいなもんだとも言った。ゲイリーがアル中だったことも解説した。既に彼らの音楽が完全に時代遅れになっていることも話した。
というより、全体的な傾向として、もはやバンドサウンドを聞いている若者はいなかった。ジェイムズ・ドレイク。ボン・イヴェール。オーラヴル・アルナルズ。2015年までが暑い時代なら、それからは冷たい時代だ。どの領域においても汗は敗者のもの。マルーン5? そいつらが生き残れたと思うか? 音楽は死なないって?  竜を想像してみろ ( イマジン・ドラゴンズ ) 。ラップですら完全に冷め切っている。MGK。DaBaby。分かるか?
キヨカワは黙った。僕も黙った。我々は黙った。道路を挟んだ向こうにくじらの像が建っていた。そいつも黙っていた。
車を出した。ラジオがバーンズ・コートニーのパチくさい音楽を流す。パーソナリティが叫ぶ。今週はロックで汗を流しましょう! 僕は全てを投げ出して死にたくなった。右手には海が広がっていた。ハンドルを少し大きく切るだけ。衛星が落ちるはずのない海。JAXAの連中が昔のようにプログラムの符号を間違えていることを僕は期待した。そして無数の破片が我々に降り注ぎ、我々の手足をもぎ、その宇宙的な熱によって我々を浄化することに願いをかけた。
そのようなことは起こらない。
バカみたいに早く出たせいで、バカみたいに早く着いた。時間を殺すためにキヨカワと私は『くじらの博物館』とやらに入った。古いが清潔な資料館だった。備品みたいなババアがチケットを売っていた。キヨカワに話しかけたくなかったので、僕は大人用のチケットを二枚買った。キヨカワは黙って受け取った。
くじら漁は――と博物館の資料には書いてあった――昔の日本人が、荒々しい自然と関わり合いながら共生していくやり方の一つでした。また、それは長門の人々の間での交流や、外の人々との交流も育んだのです。
もし僕に足りないものがあるとすれば、筋肉や頭脳では無く、くじら漁だと思う。
キヨカワは「すごく重そうな銛ですね」と11歳の少女に求められているようなことを言った。僕はくじらについて知っていることをいくつか話した。とても孤独なくじらのこととか。それから僕はキヨカワの脚を見た。たまらん。いい脚してやがる。キヨカワは何も言わずに次の展示に移った。君たちが気になったかもしれないから言っておくと、全てのくじらは死んでいた。別に悲しいことじゃない。
『金子みすゞの父の碑』のあたりにお越しください、と市役所からのメールには書いてあった。僕はそのシュールな響きを愉しんだ。『父の』というところがいい。キヨカワはあまり笑わなかった。
その記念碑は、路地にある単なるコンクリの棒だった。僕とキヨカワは山口の路地裏でそのクソみてえな棒を眺めた。金子みすゞ父 庄之助生誕地。汗が脇の下を抜けた。乾くことなくシャツにしみこんでいった。腐敗した臭いがした。
すぐに市役所の中年女性と中年男性がやってきた。花柄のパンティーしかもってなさそうな太った女と、正常位でしかセックスしたことがなさそうな眼鏡の男だった。
我々は自己紹介をした。要約すると、彼らは仕事が無くて暇な職員だった。地元の名士は忙しいとのことだった。何に忙しいのかは聞かなかった。A4の書類にサインをした。僕は判子を忘れたが、キヨカワは持ってきていた。我々は海岸線に向かった。『みょうじょう』が落ちると仮定するならば落ちるとされるところだった。もちろん、仮定は偽だったから、実質的に我々はどこに面してもよかった。
海岸線はコンクリートで固められていた。ゴミ捨て用の青いネットが転がっていた。木のベンチが雨ざらしになっている。見捨てられた猫が体を横たえていた。夏の空気があたりのものを手当たり次第に白っぽく焼き付けていた。
キヨカワが「小学生はどこに通うんですか」と聞く。小学校はあるんですよ、と男が答えた。中学校は向こう岸にあります。12歳だったらなんてことない距離ですよ、自転車で。そうなんですね、自然がいっぱいでいいところです、また旅行に来たいです。太った女性が口を開いたが、誰も反応しなかった。彼女の声が我々の可聴域を明らかに越えていたからだ。蚊みてえなデブだ。
『みょうじょう』が落ちる時間が過ぎた。
僕は内湾に向けてスマホのシャッターを切った。写真も山口県の静穏を追認した。データが必要かどうか、職員に聞いた。大丈夫ですよ、と彼らは言った。そして帰った。我々の間にはどのような物質の交換もなかった。金銭のやりとりも、愛も、その他、君たちがその存在を措定することで人生をなんとか乗り切ろうとしているものも。
海岸線を歩いてデミオまで戻った。ドアを開けて熱気を逃がしている間、キヨカワは私のことを見た。いつものような馴れ馴れしい口調で話した。コロナのせいで、どこも授業日程が遅れてるみたいです、全国的に。だからきっと、ここの子供達も、夏休みが短くなったり、宿題が多くなったりしたんでしょうね。
僕の頃は、夏休みは学校のプールにばっかり行っていた。後は気温を測って『自由研究』だと言い張るやつをしていた。それも友達同士が持ち回りで測っていた。悪いことに、武田は温度計をエアコンの効いている部屋につるしていたから、七月の下旬は最高気温が二十八度という絶望的な冷夏になった。そういうもんだ。僕はそのことを伝えないことにした。そうだといいね、と言った。
車のエアコンの風はすぐに冷たくなった。キヨカワにとっては当たり前のことなのだろう。彼女はKindleを開いた。ブルーバックスの何かを読んでいた。

ホテルの近くのそば屋でカレーを食べた。まずすぎて失禁しそうになった。君たちに分かるように言うと、おしっこが出そうになった。犯罪的に薄く、とろみが片栗粉によって付加されていた。絶対にババアが作っていると思って振り返ると、二人のババアがいた。二人なら納得できるまずさだった。僕は排尿するためにトイレに行った。
トイレから出ると、キヨカワとババアAが話していた。ババアBはカウンターから面白そうに話を聞いていた。僕はとっさに箸の場所を確認した。二体なら殺れる。心配とは裏腹に、キヨカワは和やかに話していた。東京から来たの、とか、そういう話をしていた。僕はカレーを可及的速やかに片付けた。キヨカワはニコニコしながら食べ終えた。
「お代はいいですよ」とババアAが言った。食べきれない量の梅干しを毎年作ってそうなババアだった。年金のあまりで営業しているんだろう。学生さん頑張ってね、と言ってきた。キヨカワは話をかなり捏造したみたいだった。僕は彼女を眺めた。
キヨカワの太ももを汗が伝って、一度膝の裏を通ってからくるぶしに落ちていった。黒い靴下に吸い込まれた。それはバキバキにエロかった。僕はそれを脳内に刻み込んだ。これははっきりってエピックな出来事だった。ちくしょう、たまらん。口の中に汗の味を感じた。僕は勃起していた。失敬。
我々は素早くホテルに帰った。6時にフロントに集合しようと僕は素早く言って、素早く部屋に戻った。素早くパソコンを開いて素早く「ロリ 脚 汗 伝う エロ」と検索バーに打ち込んだ。何回かタイプを間違える。くそ。記憶の方がずっと抜けた。僕はズボンを下ろす。へそにつきそうなくらいの勃起をしている。まるで誰かのものみたいだった。
僕は記憶を使ってオナニーをした。たくさんでた。まったくいい脚してるぜ。顔が脚だったらすごくモテただろう(君たち、ここは笑うところだ)。精液をトイレに流した。僕はこれで地球環境に対して影響を及ぼした。ホテルの配管にも。悪い方向にであれ。僕の唯一の投企。その満足感を待っていた。それはいつまでもやってこない。諸君、そろそろ僕の脳内から消え去ってくれないか? 僕は君たちと話すことに飽き始めている。

2020/08/21

そして我々は往き道と完全に同じ帰り道をたどった。東京駅でキヨカワと別れた。数分もすれば、彼女がどんな顔をしていたか忘れてしまった。とんでもないブスだったことにしようと思った。そちらの方が楽しいだろうから。そうだろ? ハハ。

2020/08/23

無事にJAXAの旅行が終わったと遠藤にメールしたら、彼は「ありがとうございました。何事もない旅行だったようで何よりです」とだけ返してきた。『何事もない旅行』という表現には一切の過不足がなかった。

2020/10/06

十月になった。ポスドクの遠藤は大学をやめた。Twitterを見たら、どこかのITベンチャーに入っていた。粒子フィルタ最適化で培った技術を活かすらしい。給料が2倍になったと書いてあった。女を叩くのもやめたらしかった。僕は昼食時に会話する相手が誰もいなくなった。

『みょうじょう』が頭の上を単に回っている。僕は悪意だけで世界と接していた。どこにも摩擦はない。きれいなもんだ。