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おやおやおやとでもいうべきもの

せつせつと眼まで濡らして髪洗ふ
 野澤節子

 五月になると思い出す句がこれだ。俳句を横書きにするなど何事だ。私を魔女と呼んでくれ。中世の拷問で、私がもっとも興味深いと感じたことが、火あぶりの刑に関する注釈だ。火あぶりの刑とは、火を直接は触れさせずに、じっくりと加熱し続ける刑のことである。執行開始から数時間が経った、ある受刑者の言葉は次のようなものだったと、その本に書いてあった:「もっと薪を入れてください」

驚くほど時間が経っていることについて

大学

 プルーストはマドレーヌを紅茶につけた時の匂いから、彼が書く物語の世界を構成したという。それって、ものすごい量のマドレーヌを消費したんじゃないかと、僕は思う。想像してほしい。紅茶漬けのマドレーヌ(大量)。想像しただろうか? ちょっとすごいだろう?

 細部を詰めようとすればするほど、あなたのお父さんは、マドレーヌをびしょ濡れにする。もう少しで、教会のステンドガラスのマリアさまの小指の爪のガラスの色が思い出せるんだ。ポリ袋いっぱいのマドレーヌ(紅茶に濡れている)。それを毎週三回捨てなきゃいけない。近所の人に見つかったら大変だ。深夜にこっそり、息を詰めて。マドレーヌの焼きすぎと、紅茶の淹れすぎがたたって、あなたのお母さんはおかしくなる。あなたもやがてそうなる。あなたはそれに気が付いているべきだった。
 大体の場合、こんな感じの生産性の逓減が、芸術一家の存続というやつを台無しにする。ブリューゲルって奴らはすごいね。
 今からするのは、芸術一家の話ではなく、僕にとってのマドレーヌと紅茶の話だ。

民宿についていくつか

日記

 最近、旅行に行ったんですけど、やっぱり民宿の方があたしは好き。ホテルはなんか肩こりするっていうか、窮屈な感じがするし、旅館も微妙。ちょっとお金を払っている感が出すぎてるんだと僕は思う。はい、あなたの払った分のサービスがこれ。床はビニール。浴衣はクローゼットに。バスタオルは三枚目から百五十円です。ごゆっくりどうぞ。じゃ。

卒業についていくつか

日記

 本を読んで過ごしている。きっと、卒業の話を書くべきだろう。感謝を連ねることを忘れてはいけない。ビッグネームも忘れずに。
 だが、そのようなことはしないつもりだ。僕は卒業証書が嫌いだ。それは結果の証明でなく、むしろ通行証に近い。私を褒めそやようとする態度も、私は好かない。というのも、私は返報性の原理に支配されており、それは僕を常にうんざりさせるからだ。
私はもっとあけすけな態度を好む。アジアの他の国から出稼ぎに来て、そして老いさらばえた女の子たちに見られる種類の態度だ。あんたは難しい教科書を読めるかもね、それはそれですごいと思うけど、私たちは生活の仕方ってのを知ってるからね。その点では私の方が賢いと思うけど。
 僕は彼女たちのことが好きになりかける。そして毎回嫌な気分になる。彼女たちは家族の話を始める。彼女たちは、いとこまで含めて養えるだけの財を稼ぎ、本当に養ってしまう。脳は萎縮し、肺が副流煙で汚れ、背も縮んだ後、一晩に二千本のビールの蓋を開けた手に残るのは……どうしてこんな話を始めてしまったんだ? 私たちは彼女に期待しすぎ、そして失望に対して準備ができていない。結局は人の語ることだ。
何の話をしていたんだっけ? 卒業の話――それもどうだっていい。私は書いている。書くことについて書き、書くことでないことについても書いている。テキストエディタは私を空に持ち上げて、ものすごい速さで書かせる。空気抵抗がそれを一割くらいまで削ぎ落とす。それだけが重要だ。まさに然り。

スタイルについていくつか

はじめに

 ブログをはじめた。暇だったからだ。小人閑居して不善を為す。天網恢々疎にして漏らさず。

 最近読んだ本や、マジリスペクトしている小説家の文体を真似たり、くっつけたり、鋳掛たり、ひっくり返したり、サモツィアー(今作った造語)してみたい。読んだ本を忘れないためにだ。暇だったからWeblogを始めたと言ったな、あれは嘘だ。

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